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「は?」

駅に近い荷物の受け取り場所である指定された喫茶店で受け取った
自称「荷物」を見て呆れ返った。

「だからあたしが荷物よ ♪ 濯匡 ♪ 」

目の前に座ってる女は昔からオレに言い寄ってた女だ。
名前は 「宝生 苑子(housyou sonoko)」 歳はオレと同じくらいか?
結構人気のクラブのNO3だか4だか…確かNO1ではなかった気がするが…
最近はあんまり係わって来てなかった気がする…

そんな女が何でオレの目の前に座ってる?

「どう言う事か説明してもらおうか?柊夜をどう言いくるめた?」

確かに柊夜は荷物だと言った…あの柊夜が間違えるはずがない。

「別に〜ちゃんと正直に話したわよ〜 ♪ ちょっとヤバイ事件絡みの証拠をこっそり隠したいから
ちゃんとそれを守ってくれる様な腕の立つ男を頼んだら濯匡を紹介されたの ♪ 
最近女絡みの仕事はあんまりしないって聞いてたからそれは黙ってて…
ちょっと怪しまれたから雅ママの名前を借りたけどね〜 ♪」
「………」

そう言う事か…ホントあのヘタレめっ!!

「そんな顔しないでよ。ヤバイ証拠って言うのは本当なんだから。」
「何だ?」
「ここにあるの。」
「は?」

そう言って自分のお腹を指差す。

「……まさか…」
「そう。どうやら結構な遺産継ぐ子供らしいんだ。」
「………」

苑子が言うには1年ほど前から自分の働いてるクラブに飲みに来るようになった
「桐生 颯汰 (kiryu souta)」 と言う男に惚れられて男と女の関係になったと言う。

普通の会社員を装ってたらしいが暫く会いに来なくなったと思ったら
ソイツの家の者だと言う男が手切れ金を持って現れたそうだ。
相手の男は会社員でも何でもない…総資産ウン百億の大企業の跡取り息子だったらしい。
会社や一族のしがらみに嫌気が差し安らぎを求めて知り合ったのがこの苑子だ。

「なんでガキなんて?そう言うの一番気をつける職業だろう?」
「だって……」

苑子が拗ねた様に横を向いた。

「ん?」

「彼の子供が欲しかったんだもん…」

「…………」
「ずっと普通の会社員だと思ってたの。まあうちに飲みに来れるくらいだから
そこそこの肩書きはあるとは思ってたけどさ…まさかそんなにエライ家柄なんて思わないじゃない…
それに…」
「それに?」
「彼だって…子供欲しいって言ってくれたんだもん…」

その顔は恋をしてる女の顔で…既に母親の顔か?
さっきから何気に自分のお腹に手を当ててるのをコイツは気付いてるんだろうか?

そういや真琴も匠が腹にいる時…良くそんな仕草や顔をしてたよな…

「で?あっちにバレたのか?」
「ここ何日か彼に会えなくて…やっと連絡が来たと思ったら「しばらくどこかに身を隠してろ」って…
それ以来彼からの連絡も来なくなっちゃうし…あたし心配で…」
「まあ身動き取れない様にされたんだろうな…もしかして長男とかか?」
「うん…そう言ってた…」
「…………」

きっと男の家の方で一介のクラブのホステスに跡継ぎなんて産まれちゃ困るって所か?
大方大分前からソイツには結婚する相手なんて決まってたんじゃねーの?

「知り合いの知り合いに頼んでその人の田舎でしばらくかくまってくれるって言うから…」
「今何ヶ月だ?」
「3ヶ月…」

まだ堕ろせる時期か…だから動き出したんだな…

「じゃあサッサと行くぞ。」
「うん…」

苑子の足元にあるボストンバックを掴んでオレ達は店を出た。



「ふっふ〜〜〜ん ♪ 」

あたしはさっきから上機嫌。
だって濯匡が結婚記念日を気にしてくれて早く帰って来てくれるって言ってくれたから。

「一応予約しといて良かった〜 ♪ 」

あたしは念の為にと予約しておいたケーキを片手にルンルン気分で家までの道を歩いていた。
匠は夕方まで保育園に預けてあるからそれまでにお祝い用の料理を作るつもり。

多少出来合いのモノも買って帰るけど…今日はちょっとは頑張って自分でも作るつもり。
って…もともと料理の腕は大した事無いから作る料理も大した事無いんだけど…
気持ちの問題よね!
きっとあたしの料理の腕を知ってる濯匡ならそれでも 「良く作ったな。」 って言ってくれるはず。

「そう言う所って濯匡優しいのよね〜ふふ ♪ 」

それに宣言通り浮気なんてしないし……ん?

そんなあたしの視界に見慣れた姿が飛び込んで来た。
駅に続く大通り沿いの喫茶店から出て来たのは…このあたしが見間違う筈の無い!!
つい数時間前に玄関で見送った愛しの旦那様の濯匡!

一緒にいるのは…結構な美人さんじゃないですか!?
しかも…仲睦まじく肩に腕なんて廻しちゃってーーーーーっっ!!

何よ!何よ!!!仕事じゃなかったの?荷物運びだって言ってたじゃないのよっ!!!

それが何?やっぱり女絡みじゃない!!!この…嘘・つ・き〜〜〜〜〜〜!!!!
バカ濯匡!!!!

しかも今彼女の耳元に濯匡が口を近づけて何か囁いた。

ムカッ!!!

別に濯匡が女と一緒だったからとか…その相手が綺麗だからとか…
仲良く肩に腕を廻してたからとか…そんなんで怒ってるなんて事は無い!……多分!

ただ…あたしにちゃんと正直に言わなかった事に腹が立ってた!!

だから数十メートル前からあたしの方に2人して歩いて来る進行方向で待っててあげた。